多分あの頃は生きていた

少なくとも今よりは

「応答願います。じゃないと死んじゃう。」
「死なないでください。」

私は目をパチクリさせた。

外国かどこかのサイト。
不特定多数の人間と会話が出来るサイト。
そこで私は初めて声を発した。

「どちら様ですか？」
「僕はそうだな・・・一郎で。」
「一郎さんは生きてますか？」
「・・・生きてます。」

なんて聞こうかな。
病院の屋上。
普段は開けられないその場所で一郎はボーとしていた。
小さいパソコンのサイトをつないだままで

「百華(もか)は生きてますか？一郎は生きてます。」
「百華は死にそうだけど、生きてます。」
「年はいくつですか？僕は17歳です。」
「私は16歳です。」
「ッブ・・・。」
「？なんで笑うんですか？」
「いや、なんか面白かったから・・。ごめブ・・・！」
「下戸？」
「ちょ・・・待って・・・つぼに入ったｗｗｗ」
「意味が分からない。学校は？」
「そっちは？」
「今は休み時間。」
「嘘だｗｗｗ」
「嘘。本当はサボってる。」
「良いな、俺もサボりたい。」
「サボってるんじゃないの？」
「ううん。サボってない。」
「学校休み？」
「休み。」
「いいなぁ、学校行かなくていいんだ。」
「俺は行きたいけどね。」
「変だね。変わってる。」
「俺紳士だけどね。」
「じゃあ、変態紳士だ。」
「そうかもｗｗ」
「誰か居るのか！？」
「どうしたの！？ごぼ・・・・。」

吐血した。
パジャマが赤く染まる。

もう、いやだなぁ・・・。

細い体にあざの絶えない肌。
朝綺麗に整えた髪はガムがついていた。

パソコン室の扉が勢いよく開けられる。

「居ないか・・・。」

危ない。
見つかったら避難所がなくなるところだった。

「あ、一郎逃げた。」

一郎さんはログオフされました。

学校のパソコンに表示されるその言葉を見て私はゆっくり指でなぞりながら呟いた。

シャットダウン


あ、ログアウトしてた・・・。

ログインしますか？

もう居ないだろうな。

情けな・・・

吐きそう・・・

一郎さんがログインしました。

「何かあったの？」
「いや、ちょっとミスった。百華って趣味何？」
「えー・・・一応読書とか？でも漫画とか読まないんだけどね。」
「人生の半分くらい損してるよそれ。」
「いや、読める時間ないしなぁ・・・それに絵ってなんか苦手。」
「なんで。」
「いや・・・苦手。だって嘘っぽい。」
「じゃあ、何読んでるの？」
「に・・・日本文学とか・・・？」
「読書家だ。」
「そ・・・そこまでじゃないよ、好きな時しか読まないし。」
「読書する猫だ。」
「今、なんで猫が出たの・・・。」
「マイペースそうだから。」
「・・・ふーん・・・。」
「ついったーやるの？」
「やるけど、ほとんど更新してない。」
嘘だけど。
自虐多すぎるから言えないな。
「俺やってる。さがしてみてよ。」
「えー・・・面倒。」
「じゃあ、俺が百華のやつ見つけたら明日また話そうよ。それで良いだろ？」
「・・・いいよ。でもどうやって確認するの？」
「うーん・・・まあ、何とかなるでしょ。」
「間違って変な人に送るなよ。」
「送るかもｗｗ」

きーんこーんかーんこーん

「あ、チャイム鳴った。切るね。」
「うん、バイバイ。」

なんか懐かしかったな・・・。

人と真面目に話すとか何ヶ月振りだろう。

読書猫　ちょっと吐きそうなう

変態紳士　俺。多分そろそろ死ぬ

あ、そうか。
変態紳士って

あ、やっぱり
読書猫って

百華　か
一郎

気付いてないのかな？

こっちが反応したら気付くかな。

でも気付いたらどうなるんだろう。

嫌われそう

やめとこう

目が覚めたら

死んでないかな

「おはよう。百華。」
「おはよう。一郎。」
「私一郎の夢見たよ。」
「どんな奴だった？」
「なんか飛んでた」
「意味分からない」
「うん分からない。」

百華　ログアウトしました。

あ、ミスった。

「佐藤さん。何かあったらちゃんと先生に言うのよ。」
「・・・。」
「私は佐藤さんの味方だから。」

そう言って出ていく保健の先生。

それだけ言って帰るのか。

弱いなぁ

私弱いなぁ


あ、百華。またログインしてきた。
「どうも、さっきはどうしたんですか？」
「・・・。」

答えない。

「何か、あったの？」
「あ…っつ・・・。」
「泣いてるの？」
「泣いてない・・・。」

嘘ついた
嘘つかれた

なんか、くすぐったい。

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